第20章 特別短編 俺達の道
「はい、こちらが滝沢さんの日記です」
美樹さんが俺にUSBを渡してくれた。
「すいません…警察に押収されたまんまで、パソコン帰ってきてなくて…」
「いえ…バックアップ取っておいて良かった」
美樹さんはあの時の勇敢な姿が想像も付かないほど、そのへんの風景に溶け込んでいた。
どこにでもいる、主婦の姿そのもの。
「お元気そうで良かった」
「ありがとうございます。ほら、翼…こんにちはは?」
「おねーさん、こんにちは!」
そういうと翼は美樹さんにぼすっと抱きついた。
「うっ…翼くん力強くなりましたね…油断しました。さ、もう一丁!」
「こんにちはっ!」
ぼすんぼすんと二人は遊んでいる。
「あ、あのー…?」
「あ、すいません、私としたことが…」
美樹さんは照れたように笑うと、翼の頭を撫でた。
「じゃあ、私はこれで…」
「すいません、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると、美樹さんはちょっとだけ温かく笑った。
そのまま美樹さんは路地の向こうに消えていった。
「さ、翼帰ろうか…」
「おねーさん…」
「ん、会えて良かったな…」
なんだか、あの人達と過ごした日々が遠い昔に思えた。