第19章 特別短編 あの日から…
「じゃあ世話になった方だったんですね…」
智がしんみりいうと、じいさんは遠い目をした。
「そうだな…お互い、なんて遠い道をきたものか…」
刻まれた目尻の皺は、この人の苦労を物語っているようで。
なんだか目が逸らせなかった。
「そうだ…ミュージシャンって、どんなことされてたんですか?」
智が人懐っこく聞くと、じいさんは微笑んだ。
「そうだな…バンドの真似事してたな…」
「へえ…有名だったんですか?」
「いやいや…全然…」
そういって、なんだか言葉を濁してしまった。
「俺たち、DJやってるんです」
「ほう…そりゃまた」
「だから、そんな有名じゃないバンドだって知ってますよ」
「ふ…そうか…」
じいさんはもうひとりのじいさんを呼ぶと、CDを俺たちに渡してくれた。
「それ、家に帰ったら聞いてみるといい」
ジャケットを見たら、アーティスト写真はなかった。
CGが描かれた無機質なものだった。
「avid…聞いたことある」
智が手に取りながら呟いた。
「そりゃ、光栄だね…」
「お茶、入ったよ…」
もうひとりのじいさんがトレーを片手に庭に出てきた。
香りのいいハーブティーだった。
「これ、ここの庭で育てたんだ」
「へえ…すごい…ナマの葉っぱ…」
「これが本当のハーブティーだよ」