第3章 fact
「石井先生。黙ってちゃわからない。なんか不味いことでもあるの?」
親父が頭を掻きながら、足を組み替える。
「いえ…」
「なら、知ってること教えてくれませんか?」
俺が身を乗り出しても、先生の姿勢は変わらなかった。
「せんせぇ…」
翔が心配そうに先生の顔を覗きこむ。
「なかないで?」
ふっと先生は笑った。
先生は40代の中盤だろうか。
女性の年はよくわからない。
「泣いてないよ…?翔くん」
翔の髪をさらさらと先生は撫でた。
「相変わらず、優しいねえ…」
翔は心配そうにじっと先生の顔を見てる。
先生は翔から目を逸らすと、俺と親父の顔を見た。
「少し、長くなります…」
昼すぎから降りだした雨が、降り続いている。
ボロアパートに帰ってきた俺は、潤と智、そして雅紀に連絡を取った。
1時間くらいして、全員が俺のアパートに集まった。
「あれ?まだ翔いるの?」
潤が雨のしずくを払いながらはいってくる。
後ろから智が傘を畳みながら入ってきた。
「うん。今日も預かることになった」
「そうなの?大丈夫?」
翔はベッドで寝ている。
先生に会えたことで、興奮してしまって、疲れたんだと思う。
「…どうしたの?和也?」
智が心配そうに声を掛けてくれる。
「ん…いや…」