第3章 fact
このビルは、知的障害のある子どもから大人まで預かっている。
利用者の多くは子供だ。
だが、大人の利用者も少なくはない。
俺は子供部門を担当してる。
大人部門は男女分かれている。
職員も男女分かれて世話をしている。
そうじゃないと…性的な間違いが起きるから。
障害者の性の問題は根深いものがある。
別の施設では男女の利用者を同じ部屋で預かっていたら、いつの間にか妊娠していたこともあったそうだ。
うちの施設では、そういったことが起きないように、男女別々でお世話することになっている。
ご丁寧に、預かる階まで違わせてある。
だから10階建てのビルなんだ。
症状や性別、年齢で預かる階を変えてあるのだ。
「で、お前どうするつもりなんだ?」
「わからない…だから親父に相談してる」
「ん…もしな、翔くんが虐待を受けたならな、簡単には元いた場所には返せねえな…」
「さすが親父…」
「まあそう褒めるな。だがな、翔くんの現在の監護権が誰かってとこが、重要なんだ」
「だよな…厄介だよな…」
大人の障害者には監護権というのがつく。
この監護権を持つ奴が、その障害者の面倒をみるという決まりなのだ。
「とりあえず恵和から、身元さぐってみるか?」
いつも頼りない親父だけど、障害者のことになると、途端に眼の色が変わる。
そういうとこは、かっこいいと思ってる。