第3章 fact
「ほお…えらい別嬪さん連れてきたじゃねえか…」
「親父…こいつは男だ」
「わかってるよ。冗談の通じない息子だな…」
会長の机の上には、「小出滋郎」というネームプレートが出ている。
俺とは苗字が違う。
ま、わかるよね。
離婚してんだ。お袋と親父。
「あんな。コイツ、身元わかんねえの」
「は?」
「昨日、雅紀が…あ、俺の友達が、質の悪いのに絡まれてるとこを助けたんだよ…」
「へえ…」
親父は下がり気味の眉を、更に下げた。
「で、助けてみたら身元わかるもの何ももってねえし、なんもわかんねえのコイツ」
「名前くらいは言えんだろ?」
「ああ。それは、櫻井翔っていうんだ」
「櫻井翔くんね」
「でね、こいつ恵和学園で働いてたって言うんだよ」
「は?」
「だから…文京区にあっただろ?恵和学園。あそこで働いてたらしいんだよ」
「また…それは…」
親父は絶句してしまった。
やはり、雅紀が言っていたことは本当なんだろうか。
「どうして警察に連れていかない?」
親父は立ちあがって窓辺に立った。
「こいつが、制服のおまわり見ると、気絶するんだよ…」
「は?」
親父はまた、まぬけに眉毛を下げた。