第13章 these
俺は内側からそっと外を伺った。
何か物音がするが、それがなんの音だか判然としない。
安藤が近くにいると言われても、実感が湧かなかった。
「雅紀、翼をちゃんと押さえとけよ」
「ああ…」
翼は安藤が悪いやつだってことはわかっていない。
滝沢を殺したやつだってことだってわからないんだ。
安藤の姿をみたら、飛び出していく恐れがあった。
翼を人質にされたら、こちらは動けない。
狙われたらひとたまりもなかった。
それは事前に話し合ってあったから、全ては雅紀に任せてあった。
まあ…滝沢の復讐に駆られた雅紀を抑えるためでもあったけどね。
「こげくさいです」
突然、翔が鼻を押さえた。
「え?」
なんの匂いもしない。
「なんか感じる?雅紀」
「いいや…わかんねえ…」
外には煙が見えるわけでもない。
「…様子見よう」
俺は戸の外を注視した。
この時、よく考えればよかったんだ。
安藤がなぜ馬鹿みたいに正面突破なんてしようとしたか。
アイツは訓練された警官なんだ…
そして悪事に関しては、長けている。
そんなこと考えればすぐわかることなのに…
「やっぱりくさい…かずくん…」
翔が俺の服の裾を引っ張った。
「俺たちタバコ吸うから、嗅覚にぶいのかも…」
雅紀が翼を覗き込んだ。
「翼、なんか焦げてる臭いしてる?」
「うん!」
「まじか」