第11章 will
「ねえ、松本さん。大野さんって、彼女いるんですか?」
看護師が、智の居ない隙を狙って何人もそう聞いてきた。
いい加減答えるのも億劫になっていた。
「俺はみたことないですけどね」
そういうと彼女たちは、頬を染めて病室を出て行く。
「あ、お礼に松本さんに彼女紹介しましょうか?」
「リハビリ終わったらよろしく」
「看護師でいいです?」
「モチロン!」
ぐっと親指を立てたら、ドアを開けて智が戻ってきた。
看護師はささっと病室から出て行った。
なんだか智の態度がおかしい。
「智?」
冷ややかな目で俺を見ると、ソファに座って雑誌を見始めた。
「おい…なんだよ?」
「別に…雑誌読んでるから話しかけないで」
つーんと言われた。
なんだこれ…
「な、なあ智もててんな!」
「……」
「今の看護師だって智狙いみたいだしさ…他にも何人か言ってきたヤツいたんだぜ?」
ぱらりとページをめくる音。
「…なんだよお前。何、怒ってんの?」
またぱらりとページをめくる。
読んでねえだろそれ…
なんか…デジャブ…
あ、そうだ。あれだ。
付き合ってた彼女を怒らせた時。
彼女はファッション雑誌を見たまま、頑なに俺のこと見ようとしなかったし、喋ろうともしなくなった。
ケンカもさせてもらえない。
そのくらい、彼女は怒っていたのだ。
俺が浮気したから。
まだ怒鳴られたほうがマシだった。
言い訳ができるから。
でも貝のようになってしまった彼女に、何を言っても無駄だった。