第10章 stream
「やだ」
「やだじゃないの。さ、ばんざーい」
暴れる翼をなんとか押さえつけて着替えさせた。
「やーだぁ…」
どうやらいつもパジャマしか着せてなかったみたくて、普通の服は窮屈で嫌みたいだった。
それにこれ、俺の服だし…
俺は秀明が買ってきてくれた服をそのまま着ていくことにした。
「秀明いいぞ。準備出来たか?」
翼の手を引いて小部屋に行くと、秀明はでかいカバンにPCを2台詰め込んでいた。
「お前…」
「これしか俺の財産ないの」
そう言って立ちあがった。
玄関のドアを出ると、薄暗い通路にでた。
翼は靴がまた嫌だと駄々をこねている。
「我慢しろよお前…」
秀明が駈け出した。
「裏から出よう」
「わかった」
翼の腕を掴んで俺も駈け出した。
途端に秀明が止まった。
「秀明…?」
「おっさん…」
秀明の見ている先、暗闇の中から影が滲み出てきた。
「秀明…お前…裏切るのか…」
ぞっとする声だった。
安藤…!
「雅紀…後ろに行くと、地上に出るから…早く…」
小声で秀明が囁く。
「あの階段を上るんだ…」
「分かった」
影がこちらに一歩踏み出した瞬間、俺達は走りだした。
「翼っ…走れっ!」
「やあああああっ…」
もうわけがわからなくなって翼を抱え上げた。
そのまま階段を登った。
途中から急に明るくなって、外に出たと思ったら商店街に出た。
後ろを振り返ったら秀明が俺に向かって微笑んだ。
「雅紀っ…」
「秀明!」
パアーンと耳を劈くような破裂音が聞こえた。