第10章 stream
びくっと翔の身体が震えて、動きが止まった。
俺は少しだけ身体が動くようになって、後ろから安藤に飛びついた。
「翔っ…逃げろ!外に行くんだ!」
「やああっ…かずくんいっしょ!」
「だめだっ…早くっ…」
安藤は俺を振り払おうと身体を捩っている。
チッと舌打ちをすると、俺の襟首を掴んで翔の方に放り投げた。
また背中から床に落ちて、受け身が取れなくて息ができない。
警官と一般人じゃこんなに力の差があるのか…!?
ふと安藤を見上げたら、口の端に泡をつけてる。
普通じゃない…こいつ…なにかやってる…
昔見たヤク中のじいさんを思い出した。
血走った目で俺たちを見下ろす安藤は人間に見えなかった。
どうする…どうしたらいい…
なにか武器になるものを探したけど、ない。
泣きじゃくる翔を後ろ手に隠しながら、俺は後ずさった。
床をずりずりと這いずる俺たちを見て、安藤はニヤリと笑った。
「翔…ほらこっちにおいで…気持ちいいことしてやるよ…」
「いやっ…」
翔は叫ぶと俺の背中にしがみついた。
「おい…今のうちだぞ…」
じりっと安藤の黒いブーツが近づいてくる。
「翔を渡せ」
低い声が頭上を通り過ぎていく。
頭のなかの警報は鳴りっぱなしだ。
翔を渡したら…殺される…
絶対に渡したら駄目だ。