第8章 tower
その日は、どこかのビジネスホテルに連れていかれた。
俺達の部屋はツインで、智の部屋は隣だった。
必要なものは、美樹さんが買ってきてくれた。
部屋で翔とふたりきりになると、どっと疲労が押し寄せてきた。
「翔、風呂にはいろうか…」
夜の7時になったばかりだった。
腹も減らないから、買ってきてくれた夕食にも手はつけていなかった。
さっき親父から電話があって、事情を話すと一週間休みをくれた。
石井先生の話を親父も聞いていたので、事の重大性がすぐに飲み込めたようだった。
とにかく翔を守れと、最後に親父は言った。
わかってる。
わかってるんだけど、今日感じた無力感が俺を苛んでいた。
潤があんな目にあったのに、自分はなにもできなかった。
もっと、強くなりたかった。
精神的にも、肉体的にも。
俺はひ弱だ。
「かずくん?」
翔がバスルームの入り口で俺を見ていた。
「ああ。今行く」
二人で歯磨きをしながら、お湯を溜めた。
ここは二人の家みたいなユニットバスだった。
口をすすぐと、翔を抱きしめて湯船に浸かった。
翔の白い肌が、ほんのりと赤く染まるのをじっと見つめた。