第8章 tower
潤の命に別状はなかったときいて、俺も智も少し緊張が緩んでいる。
智がそのハンカチで、涙をそっと拭った。
「それと…」
美穂さんは窓の方を向いた。
「これはあくまで推測の話です。だから、これもお話できなかったものです」
美穂さんがゆっくりと語りだした。
安藤は、10年前に事件を起こしていた。
少年を強姦したという容疑だった。
だから出世の道は閉ざされている。
しかし内容が内容だったので、警察ではこの事件を握りつぶした。
そして今だに隠蔽を続けている。
安藤も罪を認めていない。
だからそのまま警官を続けているのだ。
そしてもう一つ、安藤に警察が決定的な処分を下せない理由があった。
この事件の前後、子供が一人、行方不明になっているのだ。
この子供を安藤が拉致監禁している恐れがあり、安藤に何かあると危害を加えるおそれがあるので手が出せないのだと。
安藤の少年好きの性癖は有名な話しで。
誰もがこの事実を認識しているのに、誰もが安藤をどうすることもできなかったというのだ。
このことや、安藤の出入りしている地下クラブ、カジノに警察幹部も関与している。
安藤の出す甘い蜜に群がる害虫が、警察内部に巣食っているのだ。
怒りで身体が震えてきた。