As well be hanged for .....
第10章 女は投げやりに 男は完璧に 後篇
いつの間にか涙は止まり、偽りの故郷の庭を見つめたままのウリエ。
隣に座るシエルは幾分か落ち着いたウリエの横顔を盗み見ながら、先ほどの女王の手紙を思い出す。
文面は形式通りで、彼女の姉の訃報を簡潔に知らせる物だった。
しかし、何処か小躍りしているようで筆が良く走っているようにも窺えた。
あんな、木箱に入れて配達業者の冷凍便で運ばせるなんて。
否応にもあてつけとしか思えない。
こんな時代になって、女王の番犬はペット以下と言う訳か。
「シエル。」「ウリエ。」
二人は同時に互いの方へ振り返り、驚く。
レディファーストと言う事で、シエルはウリエの言葉を促す。
彼女は先ほどと打って変って強い瞳でシエルを見つめる。
「シエル。いいえ、悪魔のシエル・ファントムハイヴ。私、真実を知りたい。先にどんな物が待っていようと、本当の事が知りたい。」
たとえフェンベルグの名前を、女王の面目を潰そうとも、真実がどんなものでも受け入れる。
震えは止まり、この国の奥底に潜む惨めで汚らわしいすべてを殺すような、エメラルドの瞳をシエルに真っ直ぐ向けていた。
胸の契約印が首輪のようにぎゅっとシエルを締めつける。
「覚悟は決まったようだな。」
魂を差し出す、真実を知る、すべての覚悟が。
シエルは彼女の流した涙の跡を指の腹で拭ってやり、手を引っ張って立ち上がらせる。
「では、レディ。参りましょうか。」
「うん。」
まるでダンスの誘いのように手を差し出すシエル。
ウリエは差し出された手をぎゅっと握り、一歩を踏み出した。