As well be hanged for .....
第9章 女は投げやりに 男は完璧に 前篇
未成年のために用意されていた、シャンメリーを二つ持って来させ、緊張気味のウリエに渡す。
壁際のベンチは老齢のカップルに占領され、横暴に退かすことなど出来そうになかった。
「ウリエ。」
「なに?」
「座らなくて平気か?」
「え、えぇ。大丈夫。」
主催のエドガーの挨拶があり、それが終わると先ほどと変わらずまた談笑と、今日のメインキャストを中心にし、小さな舞踏会が開かれる。
ウリエも段々慣れて来て、顔見知りへの挨拶も一通り終わり、残す所エドガーとの挨拶だけとなった。
「シエル。踊りに行かない?」
身体を動かす事が好きなウリエが、いつか言いだすだろう。と危惧していた事が起こった。
「い、いや。やめておく。」
「どうして?楽しそうじゃない。」
「踊りたいならセバスチャンとでも踊ればいいだろう。」
シエルは平然を装ってウリエにそう言ったが、運動音痴でダンスが苦手な事がばれ、ははぁーん。と小さくにやける彼女の顔を横目で見つけてしまった
。
こいつ!と彼女の口から小馬鹿にする厭味が出てくるのを待ったが、一向にその気配はなかった。
「しょうがないわ。今日は我慢する。」
ウリエはそう言ったきり、ナッツを口に放り込んで今どきの音楽に乗って、楽しそうに踊っている人たちを見つめるだけだった。
シエルの腕を離れることもなく、わがままを言う事もなく、いつもより大人っぽい彼女にシエルは不覚にもドキリと心臓が高鳴った。
悪魔の力で身長を伸ばしたシエルからは、ウリエの白い首筋が良く見える。
思わず指先が痺れ、手を伸ばしかけたが手袋を付けた手をぎゅっと握りしめ、衝動に耐える。
「シエル?体調でも悪いの?」
「いや。平気だ。」
小首をかしげて自分を少しだけ見上げるウリエは、この会場にあるスイーツを全部足しても敵わないほど、美味しそう。
もしかしたら先ほどのセバスチャンの小言はこの事だったのかもしれないな。
シエルは小さく頭を振り、考えを振り落とす。
「おやおや、こんな小さなパーティーに足を運んでいただき光栄です。伯爵令嬢。」