As well be hanged for .....
第6章 嫉妬は秘密に、紅茶は一緒に 前篇
シエルの部屋になっている書斎は、暗くカーテンも開いたままで、デスクの上に小さく明かりが灯っているだけだった。
着替えることすらせず、椅子に座りただただデスクの木目を見つめているシエル。
セバスチャンはそんな彼にわざと声をかけることをしないでいた。
部屋の隅に立っているだけで、小言も無し、アドバイスも無し、退席すら申し出ない。
まるで圧力をかけるように、無言で視線だけをシエルに送り続けた。
「セバスチャン。」
「はい。」
「ウリエは?」
「ご自分で確かめに行ったらよろしいかと。」
ただ、時折呼びかけてくる声には答えた。
聞いてくる事は同じ。
ぼっちゃんは人間を捨てるのが早すぎたのだ。とセバスチャンは思う。
今更になって自分の主人が恋を知り、自分ではない人に意識を向けられ嫉妬しているなんて。そんな事を指摘したら、今でも十分に捻くれている性格がもっと捻くれそうで黙るしかなさそうだった。
色恋沙汰は面倒だ。
あくまで貴方は悪魔なんですよ?
人間と恋なんて、仰々しいにもほどがあるんじゃありませんか?
セバスチャンは言葉を飲みこみ、浮かんでくる笑みを堪える。
「今何時だ。」
「深夜二時にございます。」
こんな時間だ、ウリエはもう寝ているだろう。
けれど、彼女が自分の前から消えてしまっていないか、確認したい気持ちが大きくなる。
「ぼっちゃん、どちらへ?」
「着替える。手伝え。」
「はい。」
立ち上がったのは着替えではなく、ウリエの部屋に行くのではないのか?と思わず口を付いて出そうになった。
セバスチャンは、何年たっても天の邪鬼が治らないシエルのジャケットに手をかけ、寝巻に着替えるのを手伝う。
シエルがベッドに横になるのを見届けて、執事は部屋を退散した。