As well be hanged for .....
第6章 嫉妬は秘密に、紅茶は一緒に 前篇
「番犬失格…」
ポツリと呟いた彼女の言葉は、シエルの耳には良く響いた。
人間だった頃の自分は、もっと勇敢に色んなものに負けじと挑み、傷つくことすら恐れず、必要とあらば身を投げ出した。
今、自分がこんなにも葛藤するのは、なぜだろうか。
「お前はそんな半端な覚悟で、番犬番犬と名乗っていたのか!たかが父を亡くしたぐらいで!姉がいなくなったことぐらいで!忠誠心が揺らいでどうする!」
元番犬として、次代に渡った女王の番犬と言う仕事が、ヨゴレであることには変わりない。しかし、簡単に揺らいでいい物だとは思っていない。
情けない!
「僕は、一夜にして両親を失った。家も何もかもだ!お前にこの気持ちがわかるか!」
「ぼっちゃん!」
セバスチャンの鋭い声でシエルはピタリと止まる。
彼の腕の中にいるウリエは、今までに見たことがないくらいガタガタと震え、シエルに恐怖している事が痛いほど伝わる。
「ぼっちゃん。申し訳ありませんが、貴方とお嬢様では状況が違いすぎます。」
どういうことだ。とシエルは反論しなかった。
彼女の事をわかっているつもりだった。
何もかも無くし、もう失う物がなかった自分。
守っているはずだったのに、それらがぬるりと目の前から消えていく彼女。
「お嬢様は怖いのです。あなたや私までもいなくなってしまうのではないかと。自分が女王と関わる事で、大切な人たちが消えて行っているのではないかと。」
二つなのだ。
大切な者たちが目の前を去っていくのは女王を狙う奴らのせいなのか。
はたまた、女王が彼女の目の前から大切な人たちを奪っているのか。
忠誠心を貫くか、断ち切るか。
「ごめ、んねシエル……私が、あの時。願わなければ…契約するなんて言わなければ…。」
貴方がそんなに怒る事もなかった。
何かに縋っていないと押しつぶされそうなウリエは、目の前にただ差し出される腕を掴んでいる。
シエルではなく、セバスチャンの腕を。
僕が見つけた、僕のウリエなのに。
僕だけが彼女の心を知っているはずなのに。
「お嬢様。今日は休みましょう。」
すくりと立ち上がり、ウリエを抱いたままリビングから消えていくセバスチャン。
シエルは顔を下げ、彼女を見る事が出来なかった。