As well be hanged for .....
第5章 砂糖は多めに 塩は少なめに 後篇
シエルの部屋へと遠慮なく飛び込んだウリエは、携帯ゲーム機に夢中になっていたシエルの手からそれを取り上げ、その赤い瞳を睨みつけた。
「気になる!」
「なにがだ。やかましい、返せ。」
シエルはウリエに奪われたゲーム機を奪取し、また視線を落とす。
ウリエはそんなシエルもお構いなしに話を続ける。
「義足の男。」
「が、どうした。」
「その男は右が義足なのよね。」
「あぁ。そうだとセバスチャンが。」
ウリエは資料室として使っていたこの部屋の本棚から、一冊のファイルを取り出し、シエルとゲーム機の間に広げる。
「おい。」
「見て。」
シエルは仕方なくゲーム機を離し、ウリエの差し出すファイルに目を通す。
警察からくすねてコピーしてきた形式ばった書簡には、彼女の父親の名前と死亡時の状況や死因が書かれていた。
ファシル・フェンベルグ 男 43歳
現場は貿易港、ファシル・フェンベルグの物と思われる(DNA一致)鋭利な刃物で切断された右足が現場に残されていた。
現場には致死量をはるかに超える血液が流出。
右足以外の身体は見つからず、殺害現場から海まで引きずられたような血痕があったため、犯人の手によってその他の身体は海に投げ捨てられた模様。
水中捜索するも、他の身体は発見できず。
死因は不明だが、現場に残されている血の量から見ても失血多量で死亡したと思われる。
シエルはそのファイルから顔を上げて、変わらずに自分を睨みつけている緑の瞳を見つめる。
「…お前は自分の父親が生きてるんじゃないかと思ってるのか?」
「ちょっとだけ。」
シエルはファイルの一文を指でなぞりながら読みあげる。
「『致死量を超える血液が流出』正確にどれだけ流れているかは書かれていないが、この写真を見る限り、生きているかもしれないとは思わない。」