As well be hanged for .....
第4章 砂糖は多めに 塩は少なめに 前篇
「ところで、ボーイフレンドかな?」
「そんなところ。えっと、シエルとセバスチャンよ。仕事を手伝ってくれてるの。」
「ご令嬢もそんな年ですか。あぁ、現場へ案内しますよ。」
わざとらしいエドガーの振る舞いに、シエルは眉をひそめる。
先を行くウリエとエドガーを、追おうとしないシエルにセバスチャンが耳打ちする。
「ぼっちゃん。ご気分でも優れませんか?」
「いや。どの時代でもああいう輩はいるんだと思っただけだ。」
「人は早々変わるものではありませんよ。」
さぁさぁ。とセバスチャンがシエルの背中を押し、二人が来るのを待っていたウリエと共に、惨劇のあった家の中へと足を踏み入れる。
「ご遺体は運び出され、鑑識作業も終わってますから、ご自由に。」
「ご遺体はどこに?」
「安置所に保管されますよ。終わったら案内しましょう。」
「えぇ。」
洒落たスーツが、血の付いた壁に擦らないよう気をつけながら現場を出ていったエドガー。
ウリエはその背中が消えるまで見送って、ようやく部屋の中を見回した。
「狭いな。」
「さすが、おぼっちゃまね。これが現代の一般家庭の暮らしぶりよ。」
3LDKの普通の一軒家。
対面キッチンに、ダイニングテーブル、ソファー、ローテーブル、テレビ、観葉植物。
年収も平均で、ごくごく普通の一般家庭だっただろう。
ただ、ここは作りものなのではと疑うほどに、壁中には血痕が飛び散り、血まみれの身体が擦ったのだろう跡もある。
苦しんだ事がうかがえる、ハッキリとした爪後まで残っている始末。
セバスチャンとシエルは、一般家庭とは?と言う所に興味が行っているようで、あまりこの無残な状態の部屋には興味がないようだった。
「あし、あと?」
「血を踏んだ靴で歩いた跡ですね。片足、しか見当たりませんが。」
セバスチャンが指で指し示していく足跡は、左足の足跡。大きさで男の物だとわかる。
「右の足跡は無いのかしら。」
「らしきものは見当たりませんね。」
「おい、セバスチャン。この丸い跡はなんだ。」
一人別の方向を見ていたシエルが声を上げ、指を指す所を三人で覗きこむと、点々と等間隔で玄関まで続く丸い跡があった。