As well be hanged for .....
第4章 砂糖は多めに 塩は少なめに 前篇
午後。
「シエル。手紙が届いたわ。」
ウリエはやはり届いた女王からの手紙を、リビングのテレビを占領してゲームに興じるシエルの元へと持っていく。
「あぁ。」
ソファーに肩を並べて、一緒に手紙を覗きこむ二人の様子を、廊下の影から見守るセバスチャン。
最近あの二人が、喧嘩をせず平和に過ごしている事を喜びながらも、かたやじゃれあいの様な小競り合いを望む自分もいる。
確かに。と自分の主であるシエルの横顔を見て自分に言い聞かせる。
見た目こそ子供であれ、彼と過ごして来た日々は100年に近い。
ティータイムを共に過ごした者たちは、とっくに過去の思い出となり。自分達が愛用してきた物や衣装は、今ではショーケースに入れられ、大勢の人が物珍しそうにじろじろ鑑賞するものとなってしまった。
近頃の大人達が必死になって向きあうのは、昔のように小さな紙切れではない。
じりじりと発光して、大量の文字や写真を即座に映し出す小さくて薄い機械、PCやタブレット。
電気で走る自動車や、当時よりも断然早い列車、新幹線と言うらしい。空を飛ぶ鋼鉄の乗り物、飛行機やロケット。
大分変わってしまった。と思う反面、シエルと出会う前だってそう言う思いをした事があるではないか、と悪魔である自分に失笑する。
「セバスチャン!」
自分の頭に直接響いているのではないか、と思う主人が呼ぶ自分の名前。
わざとらしく間をおいて、リビングへと顔を見せる。
「そんな大きな声を出さなくても、聞こえていますよ。ぼっちゃん。」
「街へ行く。」
「はい。かしこまりました。」
出会った頃から何ら変わらない、シエルの子供のくせに強い瞳、いや、少しは変わっているのかもしれない。
その横で、似たような光を瞳に宿すウリエ。
13歳と16歳という年齢の差なのか、シエルよりも芯の強い顔をしている。
二人は黙ってセバスチャンの手によって揃いの紺色のスーツとワンピースに身を包み、まだ日の高い活気ある街へと向かう。