As well be hanged for .....
第21章 良き母はふしだらに 猫は不自由に 後編
「すまないね、ボーイフレンドとやら。こんなところまで付いてきたのが運のつきだ。」
がちり。と重たい撃鉄が上げられる音。
その音に釣られるように、ウリエは自分の母親を踏みつけるエドガーの白い靴から視線を上げた。
「!」
頂点を残すだけとなった夕陽の残り火が、顔を上げたウリエのエメラルドに飛び込む。
まるで、太陽の焔がその瞳に燃え移り、激しく燃えているように見える。
エドガーを睨むでもなく、媚びる訳でもない熱い視線。
撃てるものなら打ってみろ。
本当に撃っていいのか?
あぁ、いいとも。お前の好きにするがいいさ。
しかし、そうすればお前は死ぬんだぞ?
黒い小銃の銃口はピタリとウリエの額に向けられる。
怯むことなく視線をエドガーに向け続ける彼女は、精巧に出来た人形のよう。
誰もがその場で息を飲んだ。
「…ご令嬢。共に時を過ごせた事を嬉しく思います。」
勝敗はついた。
エドガーは銃を彼女に向けたままそれを悟った。
負け犬は自分だ。
彼女はきっと、泥水だって平気で飲むだろう。
穢れ無き白を纏った、頭のおかしな女王のために。
目の前で燃える瞳を向けてくる美しいこの少女は、身動きが取れないほどきつく縛られているにもかかわらず、立派で堂々たる飼い犬だった。
自分はどうだ。
女王の白に擬態して、そのスカートのひだにしがみ付く寄生虫ではないか。
「貴女の…生きざまは、美しかった。」
いったいなぜ、こんな年端もいかない少女が。
そこまで強くある必要があったのだろうか。
影とはそんな少女までも強くしてしまう物だったのか?