As well be hanged for .....
第21章 良き母はふしだらに 猫は不自由に 後編
この質問の答えは否だ。
政府の犬は表の力。
女王の犬は裏の力。
なかよしこよしにお手手をつないでダンスなど出来るはずもない。
「もういいのよ。私の可愛いエメラルド。」
久しぶりに聞いた優しい母の声に、思わずウリエは顔を上げてしまった。
無礼だったか。と気がついた時には既に、母親の表情が脳に焼き付いてしまっていた。
虚ろな瞳。
やつれた頬。
浅黒い肌。
やせ細った首。
その手に光る、銀色の鋭い光。
「脳みそを使う賢い犬にならなくても。」
「えぇ。その通り。」
「甘えたいでしょう?ほら、おいで。昔のように一緒に眠りましょう?」
ずず、ずず。と美しい芝生を、踵で抉りながら足を擦ってウリエに近づく彼女の母親。
母親の顔に浮かぶ歪んだ笑顔は、物理的に作り出された物だ。
本来は薄皮に針で糸を通して模様を描く、ボディステッチと言う物なのだろうが、彼女の顔に施されているのは、針金を顔の筋肉に通し、強制的に頬を釣り上げている物。
ファッションとは言い難い狂気の施術。
ウリエは無意識のうちに右手で左腰を探っていた。
「どうしたの?こちらへおいで?」
「動きなさい、パピー。」
優しい母の声と穢れのない女王の声。
目の前に幻想の天国が広がる。
いつまでも触れない腰の剣を探す右手だけが、あやふやになる思考に歯止めをかける。
「どうしたウリエ。なにを探している。」
「っ!」