As well be hanged for .....
第20章 良き母はふしだらに 猫は不自由に 前篇
「エドガー様。どのようなご用件で?」
「この間の事件の事でな。ご令嬢はご在宅ですかな?」
「…えぇ。」
セバスチャンは突然訪問してきたエドガーを、上から下まで舐めまわすように品定めし、靴の先に泥が付いていないことを確認してからようやく客間へと案内した。
「お嬢様。エドガー様がいらっしゃっています。」
「…エドガー?」
「はい。この間のストーカー事件の事でご訪問だそうです。客間でお待ちいただいています。」
ウリエは手にしていた紅茶のカップを静かにソーサーに戻しながら、シエルと視線を合わせる。
今更何の用かな?と。
シエルはその視線を受け流し、つまらなさそうに残り少ないカップの中身へと興味を写す。
一人で行って来い。と。
一瞬のアイコンタクトの末ウリエは立ち上がり、セバスチャンを伴って客間へ顔を出した。
「こんにちはエドガー。何のご用です?」
「いえね。今回の犯人が、少なからず顔見知りでしたから。ご令嬢が落ち込んでいるのでは?と尋ねたまでですよ。」
「ご丁寧にどうも。平気よ。ちょっと驚いたけれど、他人が何を考えているかまでは解らないもの。」
セバスチャンはお客用の飲み物を、二人の邪魔にならない端の方で準備している。
一見ただの世間話のように見えるこの会話。
傍で聞いているセバスチャンには、並び合った細い綱を、二人が競うように歩いているように思えた。