As well be hanged for .....
第19章 勝利は未熟に 死は盲目に 後編
「お嬢様。そろそろおやすみになっては如何ですか?」
夕刻にあんな事があり、夜にはエドガーたち警察の捜査が入り、夕食を簡単に済ませ、今ではもう深夜に近い。
ウリエは夕食後、就寝準備を済ませすぐに部屋に籠っていた。
セバスチャンはそんなウリエの部屋を訪ねたのだった。
「セバス、シエルは?」
「2,3日もすればご一緒にお食事もできるようになりますよ。」
「そう。」
読書用のスタンドライトの下、オットマンソファーに座って大して面白くもなさそうな本を膝に乗せている。
「さ、夜も遅いですから。」
「うん。」
セバスチャンはウリエから本を受け取り、ベッドへ足を突っ込む彼女に毛布をかける。
何かまだ聞きたそうにするウリエ。
しかし、セバスチャンはウリエが開口する前に本を棚に戻し、明かりを消す。
ねぇ。
と空耳でも聞こえてきそうな雰囲気だった。
「では、おやすみなさいませ、お嬢様。」
「おやすみ、セバス。」
たった三人しかいないこのタウンハウス。
今夜は妙な緊張感がこの屋敷にはびこっている。
耳を澄ませても、感覚を研ぎ澄ませても、この屋敷の中にも、庭にも何もいやしない。
虫が大きな音を立てて草むらを移動する音でさえ煩く感じる。
「嫌な夜になりそうだ。」
無意識のうちに赤い瞳をぎらつかせ、何もいないはずの屋敷の中を見て回る。
隅から隅まで、もちろん庭も、塀の外も。
ぐるぐると屋敷の外も中も見て回ったセバスチャンは、はたと気が付く。
「やはり、随分長い事人間のふりをしすぎましたかね。」
瀕死のシエルを、心の奥底で物凄く心配している自分がいた。
失う事が不安で不安で仕方なかった。
この緊張感は、背中の毛を立て唸り散らし、巣にいる我が子を守ろうとする動物と変わりない。
その事に気が付いてセバスチャンは一人嗤う。
「お嬢様の事、言えませんね。」
ようやく頭を切り替えて、明日の支度へと取りかかる。