As well be hanged for .....
第18章 勝利は未熟に 死は盲目に 前篇
「そろそろティータイムのお時間ですね。準備して参ります。」
ガタリ。と席を立つセバスチャン。
シエルもそれに続くように、ソファーから体を起こす。
ウリエはそれに特に何を言うわけでもなく、静かに見送った。
「ぼっちゃん。良いんですよ?」
「なにがだ。」
「お嬢様の側にいてあげたらいいじゃないですか。」
「……。」
まるで幼い子供が、大人になるために子供臭いおもちゃを卒業しようとしているようだ。
そんな子供っぽい主を時折からかって見るが、返ってくるのは空返事。
らしくないと言ってしまえばその通りだが、あまり見る事のない主の悩ましい様子に、物珍しさが勝ってしまう。
「お嬢様は、貴方が悪魔であることをしっかり理解されているのですから。年上の余裕とやらで、どーんと」
「わかってる。」
シエルはセバスチャンの言葉を遮り、足を止める。
そろそろ目的のキッチンにたどり着くと言うところで、セバスチャンも足を止めシエルを振り返った。
「今までも食事をしてきた事はあるが、あいつほど熟れるのを待ちたいと思う奴はいなかった。」
「えぇ。」
「いざ、完熟を前にすると。その…もったいなくて、な。」
恥じる。と言うか言い訳がましいセリフを吐くシエル。
セバスチャンは思わず噴き出してしまう。
「笑うな。」
「すみません。ぼっちゃんにしては随分女々しい事を言う物だと思いまして。」
「…もう僕は、人間ではないと言うのに。」
「彼女は不思議です。我々をあまり悪魔として扱う事はありませんでしたからね。まぁ、契約に期限はありません。熟れすぎて腐る前に食せばいいだけの話ですから、ぼっちゃんの気が済むまでお遊びになったらいいのです。」
「…ふん。」
不機嫌そうな視線をセバスチャンに向け、すたすたとダイニングへ向かって歩いて行くシエル。
その背に、セバスチャンは出会った頃のシエルが見えた気がした。