As well be hanged for .....
第16章 成果は舞台に 喜劇は皿に 前篇
「焦るのも分かります。お嬢様のお心が心配なのでしょう?けれど、彼女はどうあっても貴方と同じ、女王の番犬なのです。」
プライドがあります。とセバスチャンは小さく笑いながら言う。
フェンベルグ伯爵令嬢としてのプライド。
女王の番犬としてのプライド。
「私たちは悪魔です。天使でもなければ神でもない。彼女に手を差し伸べるのは結構ですが、あくまで悪魔なのです。彼女の隣を堂々と歩くなど出来ない事を胸に仕舞って置いてください。」
人間の後ろに張り付いて、その魂を啜る。
それが悪魔たる物だ。
人間の横で、共に笑顔を絶やさず、その命尽きるのを待つのは、悪魔ではない。
セバスチャンは力を無くしたシエルの手を離し。
にこりと笑顔を残して部屋を去って行った。
朝の光が窓から部屋に差し込み、背中が暖かくなる。
時代遅れの柄の色褪せた壁紙に自分の影が映る。
100年も前の自分の家を思い出す。
父がいた、母がいた、メイド、シェフ、庭師、家令。
ときどき遊びに来る、婚約者。
友人と呼べるのかわからないが、知人たち。
楽しかった。とまでは言わない。
反して苦しい事や辛い事もたくさんあった。
今ではもう過去の物で、戻る事は出来ない。
何度自分にそう言い聞かせた事か。
ふと、数か月前に虚空から自分を呼ぶような、引きつけるような声を聞いた事を思い出した。
強い欲望の呼ぶ声。
なぜ?どうして?知りたい!
ウリエだ。