As well be hanged for .....
第3章 仕事は真面目に 趣味はほどほどに
あっという間に息をしている人間はこの場にウリエだけになる。
「終わったな。」
返り血の一つも浴びていないセバスチャンの手際には驚く。
あっさりとこの場を去ろうとするシエルと、眉をひそめ何を思っているのか思案顔のウリエ。
セバスチャンは来た時と同様、二人のために店の扉を開け、車へと案内する。
「やっぱり。番犬とはいえ、罪のない人を殺すのはどうかと思うわ。」
帰りの車内でウリエが過ぎゆく景色を見つめながら呟いた。
夜も深まり、車もほとんど走ってない公道。
唐突にこの世界には自分達だけしか存在していないのではないかと言う妄想に駆られる。
「昨今の女王は、ずいぶん激しいのがお好みなようだな。」
過去に番犬をしていた経験のあるシエルは、今の女王の憂いの質が昔と違う事に薄々気がついてはいた。
「感覚が鈍っているのだと思う。」
「鈍る?」
ウリエはシエルの疑問に答えることはなく、またしばらくしてからようやく重たそうに口を開いた。
「昔はどうだったかは知らないけど。私は女王と直接お話をした事がないの。お近づきになる事も絶対にないし、唯一の繋がりと言えば王宮から送られてくる女王からの手紙ね。」
随分秘密主義だな。とシエルは小さく口の中で呟く。
ウリエはようやくシエルを振り返り、その闇でもくっきり浮かぶエメラルドグリーンの瞳を少し歪ませる。
「父は、女王に殺されたんじゃないのかな。」
「それは…否定はできないだろうな。知り過ぎた奴は消されてしまう世界だから。」
「もしかして、姉さまも……」
とうとう目を伏せて足元を見つめてしまったウリエ。
女王に絶対的な忠誠を誓う事を定められている番犬は、女王を疑うことさえ許されない。
顔も見えない飼い主に大切な家族を奪われたかもしれない。と疑念と不安が入り混じっているのだろう。
シエルはウリエの膝に乗せられ不安に震える彼女の手を握る。
「ウリエ。僕がいる。お前が何者であろうと僕がお前を守る。」
「シエル。」
「僕は、おまえが番犬だから選んだ訳じゃない。」
セバスチャンがシエルに目を付けた理由とは違うかもしれない。
シエルはただ単純にウリエの甘美な魂に引かれたのだろう。