As well be hanged for .....
第12章 裏切りは手に 真実は足に 後編
「提供者の名前?」
輸血の血液に、提供者の名前なんて普通書かれる事はない。
世にも珍しい血液型とかでなければ、早々こんなところに名前なんて書かれないだろう。
くい。と指でパックを回し、名前を読み上げる。
「提供者、ファシル・フェンベルグ……」
「とう、さま?」
「あ、ウリエ。」
ふるえる指をシエルに伸ばすウリエ。
シエルは縋るように伸びて来た彼女の手を掴む。
「おとうさま…」
ぎゅ。と精一杯シエルの手を握り、また目を閉じるウリエ。
ないはずの父親の影。
しかし、浮かび上がる闇に見える父親の影。
虚ろな夢の中で追いかけているのだろう。
静かにセバスチャンが戻ってきて、細かくウリエの状態をチェックし始める。
「ウリエの意識が一瞬戻った。」
「では、後は回復を待つばかりですね。」
「で。この血はどこから持ってきた?」
「最寄りの病院ですが…?」
キョトンとシエルを見つめるセバスチャン。
シエルは彼に向かって、輸血パックをくるりと回す。
「ここに。こいつの父親の名前が入っている。」
セバスチャンの目に飛び込んでくるファシル・フェンベルグの文字。
慌てて予備の輸血パックを保冷箱から取り出し、確認した。
「ぼっちゃん。」
セバスチャンが差し出した輸血パックには、やはり彼女の父親の名前。
伯爵家の人間が献血した血だから名前を入れてあったのだろうか。
それとも、この家が慈善活動として献血運動を発起したからなのか。
ウリエと同じ血液型だから彼女の父親の物である、と決めつけるには憶測が過ぎる。
「調べて参りましょうか?」
「いや……僕が調べる。紅茶を入れろ。」
「かしこまりました。」
静かに消えていったセバスチャン。
シエルはダイニングのイスを引き、ウリエを見守るためにそこに座る。