As well be hanged for .....
第3章 仕事は真面目に 趣味はほどほどに
「ですが、どうして今更?」
「最近ニュースでも多いけれど、大麻が表に出てくる事が多くなってきている事が気になるんでしょうね。」
「でも、根絶する気はきっとないんだろうな。」
「えぇ。女王もそう言うたぐいの物お好きだから。」
ウリエが番犬として仕える女王。
彼女は大麻や覚せい剤などの薬だけでなく、医療用の薬物や漢方薬などにも興味があるようで、女王に近しい界隈の人間の間では、王宮の地下に実験用の人間を飼っているのではないかと噂になっている。
もちろんウリエの耳にもきちんと入ってきている情報である。
「きっと、正義の味方面した議員か何かが、近頃の街の様子を見て薬物根絶を訴え出したのかもしれないわね。」
「あぁ!憂いた女王はこの国の潔癖を守るべく、慈愛の手を差し伸べるのでしょう!」
胡散臭いセバスチャンの即興に、シエルはクスリとも笑わず紅茶のカップを弄ぶ。
「茶番だな。邪魔者は潰して後は手の内に残す。」
「街に薬を巻いたのも彼女自身でしょうね。面白そうとでも思ったんでしょ?」
「結局。遊びは中断され、爪を噛む結果になった訳ですが。」
「尻拭いをするこっちの身にもなってほしいわ。」
カチャ!と少し乱暴にカップをソーサーに戻すウリエにシエルが、フ。と鼻で笑う。
いつの時代も女王に振りまわされるのだな。と一人ごちる。
クッキーは最後の一枚。
先に手を伸ばしたのは、セバスチャンだった。
二人の主がピーヒャラピーヒャラとケンカを始める前に、器用にパキンと真っ二つに割る。
それを二人の口に突っ込み、すらすらと文句が出てくる前に蓋をする。
「では、これからはお勉強の時間といたしましょう。私は夕食の準備に参りますので、お二人はくれぐれも喧嘩はなさらぬよう、仲良く、仲良く!お勉強をなさってくださいね。」
セバスチャンがいくら注意を促した所で、二人が喧嘩をしないで済んだ事は無い。
無駄な忠言ではあるが、言わずにはいられない。
執事としてなのか、小さな親心なのか難しいところである。
シエルの服に付いたクッキーの屑を払い、勉強部屋へと二人揃って歩いて行く背中を見送るセバスチャン。
成長することない悪魔の主人と、主人と変わらぬ背丈の年上の契約者は、極上のワインになるべく生まれて来た、手のかかる葡萄の匂いがした。