第7章 レクイエム
目覚めた時には、とっくに昼を回っていた。
何時もなら僅かな時間も惜しくて、起床後直ぐに行動を起こす俺が、二日酔いも手伝ってか何もする気が起こらない。
そんな時に限って鳴り響く電話。
相手は今一番…いや、二番目か…
どちらにしろ、声を聞きたくない相手であることは間違いない。
無視してしまおうか?
この人相手にそんなこと、俺に出来る筈がない。
煩く鳴り響く電話を黙らせるべく、液晶をタップしてスマホを耳に宛てた。
「もしもし。
………はい。分かっています。では、当日に」
電話を切ると、深い溜息が一つ零れた。
あの日、俺はこの人の放った一言で、智くんに一方的な別れを告げた。
この人にとって、俺は只の道具でしかなく、智くんはそこに纏わり付く虫螻同然の存在。
ちっぽけな虫螻を踏潰すのは簡単なことだと、この人は言ったんだ。
圧倒的な力を誇示する相手に、まだ子供だった俺は非力で…そして無力だった。
抗うことの出来ない相手に、黙って従うことが、智くんを守る最善の策だと思った。
今思えば、あの時全てを捨てて、智くんの手を取っていれば…
今更後悔したって過ぎた時間は巻き戻せやしない。