第1章 アヴェ・マリア
その後、たいした会話もないまま車に揺られ、着いたのは大通りに面した、おしゃれなファッションビルの地下駐車場。
乗った時と同様、ドアを開け、シートベルトを外してくれて、差し出された手を取ると、優しくエスコートされて…
やっぱりこんなされたら、男の俺だって勘違いしちゃうよ…
「ここどこよ?」
地下駐車場から地上に繋がるエレベーターに乗り込む俺達。
今更だけど、手が繋がれたままだ…
「ここ? 俺のビルだよ」
そう言えば風の噂に聞いたことがある…
デザイナーとして成功して、自分のファッションブロンド立ち上げた、って…
まさかビルまで持ってるとは思わなかったけど。
「すげぇなぁ…」
感心する俺を他所に、大したことない、って笑う松潤が遠い存在に感じてしまう。
ふと、鏡に写る自分の姿が目に入った。
小柄な身体に、ヨレヨレのトレーナーとボロボロのジーンズに、着古したダウンを羽織っただけの俺。
その隣には、モデル張りの長身に、見るからに高そうなロングコートを身に纏い、首にはストールを巻いた松潤。
嫌でもレベルの差を感じさせられて、俺は思わず顔を背けるように視線を足元に落とした。