第5章 月光
ドアノブに手を掛けたままで、俺はそこから動けずにいた。
身体に鉛でも付いてるみたいだ…。
はぁ…
溜息が零れた…と同時に、俺の身体は強い力で引っ張られ、つんのめる格好で部屋の中に飛び込んだ。
「うわぁっ…!」
突然の出来事に、バランスを崩した俺の身体は、長い腕に抱きとめられ、そのままその胸の中に抱え込まれた。
「…っぶねぇ」
頭上から降ってくる声に、俺は慌てて体制を整えると、身を剥がそうと両手を突っ張った。
でも今の俺には到底叶う筈もなくて、
「…離せよ…」
指先の震えが止まらない。
「嫌だ」
腰に回された腕は、離してくれるどころか、更に強い力でギュッと俺を抱き寄せる。
「離さない…ってか、アンタ身体熱いよ?」
一旦は下がったと思った熱がぶり返したのか…
あぁ、どうりで足元ふらつく筈だ。
今更ながらに濡れた髪のまま出掛けたことを後悔した。
松潤の手が額に触れた。
俺はその手を振り払った。
「だ…から、触んなっ…えっ?」
抗議する間もなく、俺の身体は宙に浮いていた。
「ちょ…降ろせって。 女みたいな扱いすんなって!」
「いいから黙ってろ」
訴えも虚しく、俺の身体は抱かれたまま、ゆっくりソファに降ろされた。
「ちょっと待ってて?」
そう言うと、俺の髪を松潤の手が撫でた。