第5章 月光
「潤、いる?」
レジカウンターに立つ女性店員に声をかけた。
女性店員は一瞬怪訝そうな表情を見せたが、再び笑顔の仮面を被った。
「失礼ですがお客様は…?」
「大野って言ってもらえれば通じると思うんで…」
お待ちください、と言って女性店員は内線電話を掛けた。
電話を切った女性店員は、“こちらへどうぞ”と店の奥へ誘った。
エレベーターに一緒に乗り込むと、ビルの最上階行きのボタンを押した。
シンと静まり返った箱の中で、俺の心臓は女性店員に聞こえるんじゃないか、ってぐらいドクドクと激しく鼓動していた。
やがて俺を乗せた箱はチンと音を立てて止まり、ゆっくりドアが開いた。
そこに広がるのは、つい最近見たばかりの光景。
違うのは、一面の窓から見える景色だけ。
箱から降りた俺は、女性店員に促されるまま、リビングを抜けた先のドアの前に立った。
女性店員がドアをノックし、
「お連れしました」
と、声をかけた。
「どうぞ」
扉一枚隔てた向こう側から、低目の声が返ってきた。
俺に向かって軽く会釈をすると、女性店員は今来た道を戻って行った。
激しく鼓動する心臓をなんとか落ち着けたくて、深呼吸を一つした。