第5章 月光
汗でベタつく身体が気持ち悪い。
安アパートに脱衣所なんて立派なモンはなくて、簡易的に付けられた洗面台の前で服を脱いだ。
鏡に映った自分の姿に、思わず苦笑する。
青白い顔に、痩けた頬。
目の下にはしっかりクマが出来てて…
たった一晩でこんなに人相って変わるもんなんだ、ってくらい酷い顔をしていた。
変わらないのは無数に散らばる赤く鬱血したような痣だけだ。
いつ消えんだよ、コレ…
深い溜息と共に浴室の扉を開けた。
コックを捻り、勢い良く打ち付ける温めのシャワーを全身に浴びた。
何もかも洗い流してくれればいいのに…
心と身体に受けたキズも…
翔くんへの想いも…
全部…
シャワーを終えると、体の怠さは相変わらずだったが、少しだけ頭の中がスッキリした気がした。
軽く拭いただけの髪もそのままに、出掛ける仕度をした。
少しだけ分厚くなった財布と、携帯をダウンのポケットに捩じ込んで。