第5章 月光
シンと静まり返った部屋に、時折聞こえる声。
和の声?
誰と喋ってるの?
…あぁ、電話か……
『………と大野さんが付き合ってるなんて話に…?』
何それ…
俺と誰が付き合ってるって?
俺、誰とも付き合ってないよ?
『……………当に結婚すんの?』
誰が結婚すんの?
聞いちゃいけない気がして、
耳を塞ぎたいのに、でも身体が言う事を聞かなくって…
『………お坊ちゃま…… 』
和が“お坊ちゃま“なんて呼ぶ相手は一人しかいない。
そっか…
翔くん結婚するんだ…。
俺がどれだけ思っても、翔くんが振り向いてくれることは、この先ないんだね?
もう終わりにしなきゃ…
俺、ちゃんと笑えるかな?
ちゃんと祝福出来んのかな?
自信ないや…
零れそうになる涙を、温くなったタオルが吸い取った。