第4章 G線上のアリア
着替えを済ませた大野さんは再び深い眠りに落ちた。
俺の手をギュッと握り締めたまま。
ポケットの中でスマホが震えた。
画面には翔ちゃんの表示。
暫くその画面を眺めていたが、握った手をそっと解き、俺は部屋とキッチンを隔てるガラス戸を引いた。
一気に冷たい空気が身を纏った。
スマホはまだ俺の手の中で震え続けていた。
「もしもし、翔ちゃん? どうしたのこんな時間に」
壁に掛かった時計は、もう深夜二時を迎えようとしていた。
「特に用事はないんだけどさ…
…今誰か傍にいんの?
あ、雅紀か…」
最大限に落とした俺の声のトーンが気になったのだろう。
「え? あ、うん。まーくんが泊まりに来てんだ…」
なんとも歯切れの悪い答えに、翔ちゃんは“そっか”と言って笑った。
「お前さ、潤が付き合ってる、って知ってた?」
「いや、聞いてないけど…? 誰と?」
そんな話はまーくんからも聞いていないし、実際初耳だった。