第1章 アヴェ・マリア
電話を切り、薄い財布とアパートの鍵、携帯だけをポケットに捩じ込み玄関を出た。
ふと階下を見下ろすと、ボロアパートには到底不釣り合いな、スポーツカータイプの黒塗り高級外車。
そのボンネットに凭れるように立つ、一際目立つ派手なファッションに身を包んだ長身の男。
ソイツは階段を下りる俺の姿を認めると、身を起こして片手をひょいと上げた。
松本潤、キザな奴だ…
「相変わらずイキナリだな、お前は…」
拳で肩を軽く小突いてやると、
「そう?」
なんて、軽く返された。
助手席のドアを開けると、俺の腰に手を回し、車に乗るよう促される。
こんな風にエスコートされたら、世の中の女性の大半が勘違いするんだろうな…