第3章 ジムノペディ
「そもそもさ、誘って来たのは大ちゃんの方…なんだか…ら…」
一旦緩んだ和の手に、再び力が込められた。
「あの人は自分から誘ったりなんかしない…」
和の目から涙が溢れる。
「いや、だから本当に…」
「嘘だ。お前、嘘ついてる。俺には分かるよ?」
そう言うと、襟元にかかった手を離し、和は寝室へと続く扉を開けた。
「あの人はさ、今でも翔ちゃんのこと想ってんだよ。ずっとだよ? 翔ちゃんと別れてからもずっと、翔ちゃんだけを想って…」
和の肩が震えていた。
俺はノロノロと立ち上がると、和の細い身体を抱き締めた。
でもすぐにふりほどかれてしまう。
それでも俺は構わず和を抱き締めた。
今度は振りほどかれないよう、力を込めて。
「大野さんてさ、ああ見えて超奥手でさ…。翔ちゃんの手が触れただけで真っ赤になっちゃってさ…。翔ちゃんそれ分かってるから、キス以上のこと出来なくって…それなのに…!」
和は手で顔を覆うと、声を上げて泣き出した。