第3章 ジムノペディ
「相手は誰よ?」
和の手が俺のシャツの襟元にかかり、捩じ上げる。
「か、和、くるし…」
普段の和からは想像出来ないような力だ。
「俺に言えないような相手なの?」
和の顔がすぐ目の前にあった。
氷のように冷たい視線に耐えきれず、俺は目を伏せた。
「…分かった。言うからさ、手…離して?」
和の手をやんわり包み込む。
「で、誰よ?」
吐息が耳にかかった。
俺は一つ大きく深呼吸をした。
「…大ちゃんだよ…」
和が息を飲んだ。
俺は目を開け、和の瞳を真っ直ぐ見据えた。
「で、でもさ、別に浮気とかそんなんじゃなくて…」
そうだ…
俺が望んで大ちゃんを抱いた訳じゃない。
潤の為にした事なんだ。
でも和は知らない。
まさか潤が“不能”だ、なんて思ってもいないだろうし…
俺は次の言い訳を考えることに必死だった。