第15章 二人の記念日
少しの沈黙の後、智君が息を一つ吐いた。
「あのね、言い訳…になるかもしれないけど、聞いて欲しいんだ」
俺を真っ直ぐに見つめる智君の視線が、痛い。
「俺、最近帰り遅かったでしょ? それには理由があって…」
「へぇ、どんな理由? 俺には言えないことしてたの?」
”浮気とか…”喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「うん、言えなかった。 だって翔君を驚かせたかったから…。だから言えなかった」
俺を驚かせたかった、だって?
一体何を言っているんだ。
「コレ…、作ってたの…」
そう言ってまだ羽織ったままのコートのポケットから、小さな紙袋を出し、テーブルの上に置いた。
「何コレ…」
俺はそれを横目でチラリと見ただけで、手に取ろうとはしなかった。
「開けてよ…」
「だから何なのって…」
「いいから開けろよ!」
珍しく智君が声を荒げる。
「分かったよ、開けりゃいいんでしょ?」
半ばやけっぱちで袋を手に取ると、キッチリテープで封をしてあった口を乱暴に破った。
掌の上で袋を逆さにしてみる。
コロンコロンと袋の中から出てきたのは、二つのシルバーのリング。
よく見ると、一つのリングの裏には何か文字が彫ってある。
”happy birthday Sho”
「えっ…何…これ…」
俺はリングを手にしたまま、動くことが出来なかった。