第15章 二人の記念日
ドアノブを握った手に力をこめ、ゆっくりと回そうとした、その時だった。
徐に扉が開き、俺はそれに引っ張られるようにして廊下に飛び出していた。
「翔…君?」
まえのめりになった身体を何とか立て直すと、驚いたように俺を見つめる智君の視線とぶつかった。
相当泣いたんだろうね、目が真っ赤に腫れている。
「何してるの?」
聞かれても、あれほど準備した筈の言葉が、一向に出てこない。
「何でもないよ」
廊下に出てしまった身体をリビングへと向けると、俺はまた冷蔵庫のから缶ビールを取り出した。
そんな俺の様子を、智君はリビングの入り口に立ったまま、ジッと見つめていた。
そして二本目の缶が空になった時、漸く智君が動き出した。
リビングに敷いたラグの上にペタンと腰を降ろし、俺を振り返る。
「ねぇ、座ってくれる?」
その声は、さっきまで俺に怯えていたか細い声ではない。
逆らうことは出来なかった。
俺は智君に言われるままソファーに腰を降ろした。
「で、なに? 言い訳でもするつもり? だったら必要ない。出て行くなりなんなり、智君の好きにしたらいいよ」
そんな言葉を言いたいわけじゃないのに、結局俺はどこまでも根性が悪いんだ。