第13章 ひとりじゃないさ
フワッと背中から包まれる温もりに瞼を持ち上げる。
「智…」
耳元で名前を囁かれ、吐息の擽ったさに肩を窄める。
「翔君」
愛しい人の名前を呼んで、肩越しにかかる彼の髪を撫でた。
「焦らせんなよな…」
「ちゃんとメモ残しといたでしょ?」
「見たよ? だから来た…」
後ろから回した手が俺の顎にかかり、肩越しに唇が重なる。
「智、風邪ひくよ?」
翔君がジャケットを脱ぎ、それを俺の肩に掛ける。
「ふふ、温かいね…」
ジャケットから香る、翔君の香水の匂い。
まるで翔君に包まれているみたいだ。
隣に腰を降ろした翔君の手が俺の手を握る。
「人に見られるよ?」
「いいよ。見せつけてやろうぜ?」
そう言って笑った翔君の笑顔は、あの時と変わってない。
俺の大好きな笑顔…
「ねぇ、翔君? 俺ね、あの日この場所でずっと見てたんだ、遠ざかっていく翔君の背中を…」
一度も俺を振り返ることのなかった背中を…
「あの日ね、俺本当はね…」
「…うん…」
「本当は追いかけて…その背中に縋りたかった…」
「………」
「でも出来なかった。きっと勇気がなかったんだろうね、翔君とずっと並んで歩く勇気が、俺には…」