第13章 ひとりじゃないさ
履きなれない革靴で砂浜を歩く。
砂を噛む音が耳に心地いい。
高校最後の夏休み。
俺達はこの場所で、それぞれがどうにもならない複雑な思いを抱えていた。
思い通りにならない感情と、嫉妬…
苛立ち、戸惑いながらも、
それでも守りたいと思った友情…
今思えば本当に子供だったんだな、と思う。
そんな風に思えるようになったってことは、俺も大人になったんだろうね。
砂浜を堤防に沿って進むと、自販機が見えてくる。
そのすぐ前の木陰に、あの日翔君と並んで座ったベンチがあった。
まだ残ってたんだ…
塗装こそ新しく塗り替えられているけど、形はあの日のまま。
自販機で缶コーヒーを買い、それを手にベンチに腰を降ろした。
指先が少しだけジンジンと痺れた。
俺は背もたれに背を預け、目を閉じる。
ふとテーブルの上に残してきたメモ書きが頭をよぎる。
『あの場所で待ってる』
たった一言、それだけを書いたメモ。
気付いてくれるかな、翔君…
ほんの少し感じる不安。
でも俺はあの時の…別れさえ切り出せず、ただ泣いていただけの、子供の俺じゃない。
いつまでだって待つよ…
翔君が来てくれるまで…