第13章 ひとりじゃないさ
身体に感じる重みに目を覚ます。
薄らと開いた瞼の先に見えたのは、大好きな人の寝顔。
起きてる時とは違って、随分間抜けた顔だけど、これが俺が愛した人の寝顔なんだと思うと、キュッと寄せられた眉毛にすら、愛しく思えてくる。
それにしても寝相だけはなんとかならないのかな…?
俺は抱き枕じゃないんだよ?
そっと腰に巻き付いた腕を解き、身体を起こす。
あ…
着替え、してくれたんだ…
処理…も…
ほんの数時間前のことを思い出すと、頬が熱くなる。
傍らで豪快な鼾をかいて眠る愛しい人を起こさないよう、そっとベッドを抜け出すと、下腹部に感じる痛み。
あの時の悲しい痛みとは違う。
その痛みさえ、嬉しいと感じてしまう。
テーブルの上に簡単なメモ書きを残し、着替えを済ませた俺は音を立てないように、静かに部屋を出た。
ホテルのエントランスを抜けると、潮の香りを含んだ風が身体をすり抜ける。
上着、着て来ればよかったな…
少しだけ後悔して足を踏み出す。
ホテルの前に広がる砂浜。
そしてその先に見える白波の立つ青い海。
あの時と変わってない。
翔君との別れを決めた、あの日の景色と変わらない風景がそこにはあった。