第13章 ひとりじゃないさ
翔君が着替え一式を手にバスルームに入っていく。
でも俺の心臓は治まることなく、激しく脈打つのを止めようとはしない。
ふとテーブルに視線を向けると、翔君が吸っている煙草が目に入った。
俺はそれを一本抜きとり、口に咥えた。
ライターで火を点け、吸い込む。
「ぐ、ゲホッ、ゴホッ…」
久しぶりの煙草に、激しく咳き込んでしまう。
なにコレ…
キツ過ぎるって…
そこへ丁度シャワーを終えた翔君がバスルームから出てきて、俺の手から煙草を取り上げ、灰皿に揉み消した。
「なにやってんの?」
呆れ口調でグラスに水を注ぎ、俺の手に握らせた。
「病院でも言われたでしょ、煙草はやめた方がいい、って…」
「うん…、そうみたい…」
俺はグラスの水を一気に喉に流し込んだ。
「大丈夫?」
俺の口の端から零れた水滴を翔君の指が掬った。
「…あ、うん…大丈…夫」
翔君がベッドの端に腰を降ろし、両手を広げた。
「おいで?」
俺は吸い寄せられるように、その腕の中に飛び込んだ。
戸惑いも、躊躇いもなかった。
ただその腕に…その胸に包まれたかった。
厚い胸板に顔を埋めると、同じボディーソープの匂いがした。
「智…?」
不意に名前を呼ばれ、上げた顔を翔君の手が包み込む。
「ずっとこうしたかった…。あの日からずっと…」
翔君の目から綺麗な涙が一つ零れ落ちた。