第13章 ひとりじゃないさ
智side
優しく髪を撫でられる擽ったさと、優しく名前を呼ぶ声に瞼を持ち上げる。
ぼんやりとした視界に、優しい笑顔を俺に向ける翔君がいた。
「翔…君?」
掠れた声で彼の名を呼ぶ。
「良く寝てたね? お腹空いてない? ルームサービス、頼もうか」
テキパキと注文を済ませる翔君。
ねぇ、知ってる?
今翔君が注文したの、俺の好物ばっかだよ?
それから俺達はソファーに向き合って座り、他愛のない会話に声を上げて笑った。
こんなに笑ったの、いつ振りなんだろう…
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「俺出てくるね?」
翔君がロックを外しドアを開けると、料理を乗せたワゴンと共に、ボーイが部屋に入ってきた。
テーブルの上に料理と飲み物がセットされていく。
「ごゆっくり」
ボーイが深々と頭を下げて部屋を出るのを見送って、翔君が缶ビールのプルタブを引いた。
冷えたジョッキに琥珀色の液体が注がれる。
「最近飲んでないんでしょ?」
「あぁ、うん。和が煩いから…」
「じゃあ、少しにしとこうか」
ジョッキの半分ぐらいの所まで注ぐと、残りをもう一つのジョッキに注ぎ込んだ。
ちぇっ、もう少しくらいいいのに…
翔君のケチ…
「乾杯、しよっか?」
俺達は互いのジョッキをぶつけ合い、それを喉に一気に流し込んだ。
久しぶりに飲んだビールは、ほんの少しだけ苦かった。