第13章 ひとりじゃないさ
それまでざわついていた会場が、一瞬にして水を打ったような静けさに包まれた。
俺は暗闇の中、隣にいる翔君に手を伸ばした。
でも、その手は突然灯された雛壇へのスポットライトを浴びながら、ゆっくりと空を彷徨った。
本当なら潤が立つ筈だった仰々しく飾られた金屏風の前に、見知った顔の男が立った。
斗真…?
そこには潤の代わりに、斗真が立っていた。
潤とは小学校時代からの腐れ縁だって、聞いたことがある。
「え~、本日は皆さま…」
斗真の明るい声が、マイクを通して会場内に響いた。
「お日柄もよく…」
会場内にドッと笑いが起こった。
でも俺は…
潤がそこにいない…
それだけのことなのに、何故か無性に寂しさが襲ってくる。
手を伸ばせば温もりをくれる翔君がすぐ傍にいるのに、潤がいないだけでこんなにも寂しいなんて…思ってもみなかった。
「…くん? 智?」
肩を揺すられて、漸く俺は自分が泣いていたことに気づく。
「どうした? 大丈夫? 気分悪い?」
こんなにも俺のことを想ってくれる人が、すぐ傍にいるのに…
「ごめ…大丈夫。ちょっと外の空気吸ってくる」
肩に置かれた翔君の手をそっと振り払い、俺は会場の外に出た。
ロビーに置かれたソファーに倒れ込むように腰を降ろすと、一気に全身を脱力感が襲った。
その時、俯いた俺の視線の先に、見慣れた靴先が見えた。
「潤…? なわけないか…」