第13章 ひとりじゃないさ
「今の、誰だっけ?」
受付を済ませ会場に入るなり、それまで笑顔だった翔君の顔が、途端にしかめっ面になる。
「誰って…、翔君分かってて挨拶したんじゃないの?」
「や、そうなんだけどさ。十年も経つと変わるじゃん、髪型とかさ…」
言われて俺は辺りを見回す。
確かに翔君の言う通り、顔には見覚えがあるのに、髪型には随分変化のある同級生もちらほらいて…
「もう、失礼だよ、そんなこと言ったら…ププッ…」
吹き出しそうになった俺の口を、翔君の手が慌てて塞いだ。
「お前ら相変わらずだな?」
声と同時に、俺と翔君の間に割って入ってきたのは、岡田?
俺たちの肩に腕を回し、岡田のにやけ顔が俺と翔君の顔を交互に見る。
「変わって無いねぇ、大野は…」
岡田の手が俺の頭をポンポンと叩いた。
「止めてもらえません? それ俺のなんで…」
翔君の鋭い視線が岡田を牽制する。
それに”俺の”って…
「おー、怖い怖い。そんな睨むなって、な? 櫻井」
俺の肩がフッと軽くなる。
「大野も大変だね、櫻井みたいな嫉妬の塊みたいなのに惚れられてさ」
「そ、そんなことは…って、えっ?」
言いかけた俺の手を翔君が引き寄せた。
俺はそのまま翔君の腕の中にスッポリ抱きこまれた。
「ちょ…翔君…?」
周囲にいた皆の視線が俺達に集中する。
でもそんなのお構いなしの翔君の顔は…嫉妬の塊を絵に描いたような、そんな顔をしていた。