第13章 ひとりじゃないさ
息をする、そのほんの僅かな時間ですら勿体無い…
そう感じるくらい、互いの体温を、重ねた唇と絡めた舌先で感じていた。
ずっとこうしていたい…
唇が離れた時、少しだけ寒くなった唇が寂しかった。
「これ以上したら、止まれなくなるから…」
翔君が恥ずかしそうに言う。
そして、ふと腕時計に視線を向け、
「やっべ、急がないと間に合わない」
急に忙しそうにする翔君がおかしくて、俺は込み上げてくる笑いを堪えるのに必死で…
でも小刻みに震える肩は隠せなくて、
「何笑ってんの?」
翔君が横目で俺を睨み付ける。
「笑ってない…よ?」
「笑ってたでしょ、今」
「笑ってないも…ププッ…」
終わりの見えないやり取りに、俺は思わず吹き出してしまい、慌てて口を塞いだ。
「ほら、笑ってる…」
だって、
「翔君て、案外可愛いとこあるんだな、って思って」
「可愛くねぇし…ってか、智君に言われたくないよ」
翔君がニヤニヤしながら俺の前髪を指で梳いた。
せっかく朝時間かけてセットしたのに…
「ほら、こうすると七五三みたいで可愛いよ?」
まただ…、
またしても”七五三”って言われた…
「もう、翔君なんて知らない」
膨れた俺の頬に、翔君がチュッとキスを一つ落として、車のエンジンをかけた。
俺達を乗せた車は、再びゆっくりと走り出した。