第13章 ひとりじゃないさ
「さとちゃんのこと、もう泣かすんじゃないよ? もし泣かしたりしたら、あたしが黙っちゃいないから。いいね?」
おばちゃんのふっくらした手が、下げたままの翔君の頭をガシガシと撫でた。
「は、は、はい…。あの…」
翔君の綺麗にセットされた髪は、当然だけどグチャグチャになって、漸く上げた情けない顔に、俺は思わず笑いが込み上げる。
「あーあぁ、翔さんもおばちゃんにかかっちゃ形無しだね」
和もつられてクスクスと肩を震わせる。
「さぁ、行っといで。さとちゃん、楽しんでくるんだよ?」
俺はおばちゃんに、出来る限りの笑顔で頷いた。
「行こ?」
今度は俺の方から翔君の手を引いた。
店を出ると、翔君が助手席のドアを開けてくれて、俺は車に乗り込んだ。
翔君が運転席の乗り込むのを待って、俺はシートベルトをかけた。
「俺がしてあげたかったのに…」
「なに? なんて言ったの?」
ボソッと呟いた言葉の意味が分からなくて、俺はすぐ横にある翔君の顔を覗き込んだ。
「何でもないよ」
それ以上言葉を交わすことなく、車はゆっくりと走り出した。
俺はどうしていいのか分からないまま、ただ車窓からの景色を眺めていた。
吹きつける冷たい潮風が頬を撫でた。
その時流れてきた聞き覚えのある音楽。
あの日、翔君の部屋で聴いた、翔君が好きだと言ったあの曲だ。