第13章 ひとりじゃないさ
翔君との約束の時間まであと10分。
俺はネクタイを手に、店の前に椅子を持ち出して座った。
行き交う車の中に、翔君と同じ車を見つけては腰を上げ、溜息交じりに腰を降ろす。
そんなことを何度も繰り返していた。
「ちょっと落ち着きなさいよ」
和は笑ってそう言うけど、今の俺に”落ち着く”なんて無理で…
「だって来ないかもしれない…」
「さっき電話あったでしょ? 翔ちゃんはちゃんと来るから…大丈夫だから、ね? 少し落ちつこ? でないとまた苦しくなっちゃうよ?」
それだけは絶対に嫌だ。
もうあんなに苦しい想いは、二度としたくない。
「分かった。でも…」
言いかけた俺の肩に、和の両手がポンと乗せられた。
「ホント、仕方ないね…。はい、おまじない」
和の顔がゆっくり近づいてきて、俺の額に柔らかいモノが軽く触れた。
いつだったかしてくれた和のおまじないだ。
「これで少しは気が楽になったでしょ?」
俺は額に手をやりながら、小さく頷いた。
その時、けたたましい音を響かせながら赤い車が店の前に停まった。
運転席のドアが開いて、降りて来たのはピシッとスーツを着込んだ翔君だった。
「お待たせ、智君」
「あ、うん…」
翔君、顔は笑ってるけど、声、怒ってる?