第12章 愛の夢
「それ、抜いて貰わないとね」
翔君が俺の腕に刺さった点滴の針を指さし、ナースコールのボタンを押して。
程なくして現れた看護師は、黙々と作業を済ませ、ペコリと軽く頭を下げて部屋を出て行った。
「愛想ねぇのな?」
翔君が眉を潜めるから、俺も吊られて眉を潜めて見せる。
「ほんと、愛想ないよね」
そして二人で顔を見合わせ、クスリと笑った。
「着替え、するでしょ?」
「あ、うん…」
流石にこんな格好で帰る勇気は、俺にもない。
「はい、これ」
翔君が綺麗に畳んだ俺の服を棚から出した。
寝巻きの紐を解き、糊の効いた布を肩から落とすと、素肌に刺さる視線を感じた。
「あの…向こう、向いてて…?」
「えっ、あっ、そうだね、ごめん…」
慌てて背中を向ける翔君。
一瞬チラリと見えた顔は、真っ赤に染まっていた。
「…ってかさ、さっきの大胆さはどこいったの?」
俺に背中を向けたまま、翔君が言う。
「さっきって…あっ…」
言いかけて俺は思い出す。
裸同然の姿で翔君の膝に跨ったことを…
瞬間、俺の全身の血液が顔に集中するのを感じた。
「あれは…忘れて?」
「忘れて、って…。忘れたくても忘れらんないでしょ、あんな…」
クスクスと翔君の肩が小刻みに揺れた。
「もう…翔君なんか知らない…」
俺は僅かに怠さの残る身体に、大急ぎで服を身に着けた。